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実験・新形態小説 『ハイドレインジャ』〜第2部その15

ハイドレインジャ
〜第2部その15

「俺さ、<シンギュラリティ>に到達したAGI (Artificial General Intelligence)が創出する、まあ、仮想世界っていうか、そういうのに今ハマっちゃっているんじゃないかって。」

すると俺のことばに凛が激しく抗弁を始めるー

「もう、ユウさんはこれなんですからね、お義父さん。私との出会いから今に至るまで、ユウさんは仮想世界でのことだって今疑っているんです。大体そんなAGIをユウさんは持っていないんですよ。持っててせいぜいMacのAir Proぐらいなんです。空事もいいところです!」

「二人が何を言ってんのがよぐわがんねあげんじょも(よくわからないんだけれども)ー」

父が割って入る。

「俺も母ちゃんも、そして長男も今<情報を持ったエネルギー>と言うのがな、そういうものになっつまって(なってしまって)、生身の人間だった頃の限界を超えまぐっていでな(まくっていてな)。いったい何次元の世界に自分ーまあ、俺の意識だなーそれが自由に行き来でぎでんだが(できているのか)もよぐわがってねぇあげんじょも(分かってないのだけれども)、そのtravel free状態のすばらしさはわがりつつもよ、3次元プラス時間の、おめだぢ(あなたたち)の世界、制限がある世界が懐かしいものだよ、いづまで経っても。」

「お父ちゃんはナイー」

母が話し出した。

「自分が研究した、特にお父ちゃんが大好きで研究したこのN町の中世、まあ、鎌倉時代後期がら戦国時代だわナイ、その時代研究で出くわした謎と、お父ちゃんの仮説、推理が、今では実際その時代に行けて、研究対象の人物にも会えてナイ、次々疑問が氷解してそれはもうその瞬間は喜んではいんだげんじょも(いるのだけれども)、しばらくすっと、『あ〜、なんでもわがっちまうど(分かってしまうと)、それはそれでつまんなぐなっちまうな』って、嘆ぐのよ。」

「そういうわげだ。」

父がしんみりと言った。

「なんでも解明すればいいってもんじゃねぇのな、ユウよ。わがっちまったら艶消しっていうのはあんだぞイ(あるんだよ)。」

「ユウよ。」

今度は長兄が話し出した。

「俺どオメで大昔、會津坂下だの塩川だの、クルマ乗ってでCarpenters聴いだなあ。」

「うん。よく思い出すよ。」

「ほうが(そうか)。あのKarenの声、歌い方をどんなに完璧にAIがsimulateしようが、本物へ迫ることはあっても本物じゃねぇわげだ。そうだべ?」

「うん。合間の息を吸う音までsimulateしても、そんなのウソじゃんって興醒めするわな。」

「そうえ(そうだ)。あの、兄だけ依怙贔屓した母親を恨みながら、そして体型の悩みを抱えながら、恋しても成就しない、あるいは成就してもすぐ別れることなってしまった女、Karen Carpenterだからこそ、その体験があるからこその歌ってあっぴや(あるだろう)。その<積み重ね>があの歌なんだぞイ。<積み重ね>はsimulateでぎねぇんだ!」

「兄貴ー」

俺は感激して、Beatlesを教えてくれたこの長兄の、墓石に浮かぶ微かな面影に向かって言った。

「そうなんだよな。<積み重ね>なんだよ。俺は大昔、自殺を仄めかす女の子に自殺がダメな理由を問われて、『宇宙は積み重ねる方向、そういう原理でできているからだ』と瞬発的に答えたことがあったんだワイ。積み重ねをやめてはいけない、消す方向で行動することは宇宙の原理違反だって。

ホーキング博士が、ブラックホール内に落ち込んだ物の素粒子レベルの情報も消えてしまうと言って、スタンフォード大学のレオナルド・サスキンド教授がその場で『ホーキングさん、あなたは間違っている』と、根拠もなかったけど反論したらしいんだ。そしてその後超弦理論で特異点(シンギュラリティ)=物理法則の成り立たぬ点は解消されるんだけどね。素粒子レベルの情報は、無限大とも言える重力の中でも残る。残る以上は積み重なる余地があるってことでしょ。」

「ユウよー」

長兄が応える。

「なんだがすんげ難しい話だげんじょ、わがるような気がすんぞ。ただなー」

「え?」

「なんで土地のことばしゃべんのやめだだ?」

「あは!いやさ、タイピングすんのめんどくさくってさ、標準語で書かないと。」

「そっか。」

訳のわからない話ばかりだったなあ、今回は。


(つづく)




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