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実験・新形態小説 『ハイドレインジャ』〜第3部その2

ハイドレインジャ
第3部その2

「I'm going to phone my mother and ask her what she knows about her ancestors who lived in Niigata.」

「お。新潟に行かなくていいんだね?東京に帰るよ。」

「Go ahead. Mr. Moore's vegetables are more important.」

凛は赤城の婆様と話をつけて休耕地貸借の話を急転直下で決めていた。とりあえず耕作自体は来春からとすると。雪解けの後だから、4月以降になるだろう。少し気長な話になった。

「Yes, mother. I've rented some untilled land from a farmer living in Fukushima. Yes. I'm going to grow vegetables there.」

凛がロンドンの母と話している。

「Am I going to live in Fukushima? No. I'm planning to go back and forth between Setagaya and Aizu. Yes, Aizu. You know where it is. Yes. Niigata's neighboring district in Fukushima Prefecture. Right.」

そしてー

「Now, mother, will you tell me as much about the Hasegawa family you were born in as possible.」

話は猪苗代辺りまで続いた。
電話を切り、凛は話し出す。

「やっぱり、だったわ。」

「ん?やっぱり伊達政宗軍にやられて落ち延びた宇多河改め長谷川の一族だって?」

「そこまでは知らないみたい。ただ遠い昔會津に一族はいて、戦国時代にそこから五泉、そして江戸時代に長岡に移ってきたって聞いたことがあるって。もっと先の先祖だと地頭で、名門だったらしいって。」

「おいおい、長岡かよ。そしてその地頭って宇多河さんのことじゃん。」

「長岡藩の藩医長谷川家につながるらしいわ。」

「え!ちょっと待って。調べてみようよ、そのこと。俺、『トーホグマン』を書いていた頃、確か長岡藩と薩長中心の新政府軍との北越戦争を指揮した河井継之助さんが抱えた藩医がいるのを調べたっけ。確か長谷川泰という名前だったんじゃなかったか。」

「・・・うん、そうよ。<はせがわ・たい>、<やすし>とも。済生学舎、今の日本医科大学の源流となる医師試験合格のための私立予備校創設者ってあるわ。野口英世も卒業生らしいわ。京都帝国大学の創立も進言した・・・え?長州の山縣有朋に済生学舎を突如廃校させられた?医学校をみな官立にするという方針もあったけれど、裏では北越戦争で長岡藩に松下村塾以来の親友を殺されたからその遺恨でって!」

「ち、エラそーに。長州兵がどれほど多くの長岡藩士を殺したかっていうんだ!
なにしろだ、Hannah Lynnのお母様はその長谷川泰につながるのぉ?」

「みたいね。どれほどの近しさなのかは分かんないみたいだけれど。」

「今日は世田谷に帰って、明日、済生学舎=日本医科大の在る千駄木に行こうか。」

「長谷川泰さんに<会いに>行くの?」

「あそこ辺りはクルマなんか停められないからなあ。」

「行ったことがあるんだ。」

「うん。<漱石病>に罹っていた頃ね。彼のいわゆる『猫の家』は千駄木さ。厳密には向丘だけど。日本医科大のすぐ近くさ。」

「行ってみましょう。」

クルマは磐越道から東北道に入った。
進行方向はるか先に遠雷ー
福島と栃木県境辺りだ。


(つづく)



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