SSブログ

蹉跌集め V-35 [小説]

おことわり

だいぶ間が空いてしまいました。すみません!
MooさんのHP「リンク」にある「MNEMO氏小説」を開いていただくか、
http://www.moo-azumino.com/main/Link/link.html
私のブログなら、タイトル脇の[小説]をクリックしていただければ、
前回V-34までの物語が開けます。



35

「これについては何とも言えない。」

堀田が言った。

「だれかの霊なのか、そうだとしたら誰で、どんな意味があるのか。」

「それぞれが明らかに違う霊ですよね。」

ケンスキーが言う。

「うん、上社と下社で違っている。」

堀田が応える。

「それでも、同じ諏訪をふるさととする霊なんですよね。」

楠子が言う。

「そうだろうね。」

堀田が応える。

「諏訪の地が、テクトニクスの力で引き裂かれ、平地になり、さらに窪んで水が
溜まって湖もできたのがいつの時代のことなのかー
例えば何百、何千万年も前のことだとして、以降豊かな生態系が育まれ、
そしてそういうタイム・スケールからすれば<最近>、約20万から30万年前に
人類がアフリカで生まれ、さらに<ごく最近>、5万年前とかに列島にホモ・サピエンスが
渡ってきて、南東から北東に八ヶ岳連峰とそれに連なる山々、西南に南アルプス、
そして真南に富士が聳え、また西には木を伐り出すのに格好のまさに<西山>という
里山があるー
さらに最後には、渇きを癒す諏訪湖のふんだんな水がある。

この地に最初に来たヒトは疑いなくその美しさに息を呑んだろう。
そしてなんという暮らすのに十分以上の豊かな土地だろうと狂喜したろう。

鹿や猪、熊を狩り、漁撈にも勤しみ、木の実も採集し、日本有数の景観を日々
楽しみながら暮らした先史時代、後期旧石器時代などの人々は羨ましいほどだ。

そしてそんな恵まれた土地だからこそ、何度も何度もnewcomersが来たはずで、
戦もあったろうが、例えば建御名方率いる出雲族は先住民、洩矢神を崇める一族と
結局は融和していった。その象徴が諏訪大社の上社・下社なんだ。

だから、あくまで勝手な推測だけれど、それぞれの霊は建御名方とその洩矢神を崇める
者の代表者・・・と言っておこうか。」

「一方は建御名方命その人かもしれませんね。」

ケンスキーが言う。

「ああ。あえてそう言わなかったけれどね。」

「ピルヒーさんと川窪先生が撮った写真に写ったのは、つまりどうしてでしょうね。」

「わからない。」

堀田は首を振った。

「その後お二人に起こったことで推し量るしかない。」

ケンスキーと楠子はいよいよ話の核心に入るのだと、座り直し、
互いの飲み物に口をつけた。

「いよいよお二人は諏訪から国道20号で北上し、塩尻で19号に入り、松本に着く。
天候に恵まれ、西の北アルプスが日本の屋根としての堂々たる連なりを見せ、
東の山々は群青色の塊となってより市街地に迫っている。」

堀田が自分の体験からの描写も交えて話す。

「堀田先生の松本市深志の家の前に着くと、先生は出雲大社の生弓生矢を腰のベルトの
ところに差し、ジャケットを着てそれを隠し、そしてピルヒーさんは小谷村のシクマから
もらった姫川翡翠の勾玉の目にあたる小さな穴に替え靴の革紐を通して、
急遽ネックレスにする。

二人は車を降り、玄関の呼び鈴を押す。

まもなく出てきた堀田先生のお母様はーー」

ケンスキーと楠子は固唾を呑む。


<つづく>





nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。