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Many MORE Happy Returns!

今日はMooさんのお誕生日です。
おめでとうございます!

まだまだ「『色気』は沢山ある」とのことで、カッコ付きにしたのはどういうことか。笑

その「色気」の発揮を期待しております!


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実験・新形態小説 『ハイドレインジャ』〜その20

ハイドレインジャ
その20

俺たちは話しながら、20年前だかに凛がDT、つまりおそらく津軽出身の大作家が、次元超越をして現れたというM学園近くの玉川上水へやって来た。

「俺が一緒にいる以上、そして真昼間だし、DTさんは出て来ないよね。」

俺が笑って言うと、

「時間は関係ないと思うけど、なにしろ私、すっかりおばさんだし」

と凛が応答した。

「いや!」

俺は即座に否定した。

「DTが今の凛さんにも惹きつけられないはずはないよ。」

凛は苦笑した。

「ありがとう。ところで、DTがこちらへ入って来る<貫入部>はどこかしらね。」

「僕は昔、夏なら蜩(ひぐらし)が鳴くところではないかってブログに書いたことがある。」

「ええ。読んだわ。もう六月も中旬だし、この辺り蜩が鳴き出したかな。」

「どうだろうね。確かに六月でも成城の丘で夜明け前や薄暮で鳴くのを僕、聞いたことがあるよ。この辺りはどうだろうね。」

「見て。上水の柵から紫陽花が顔を出している。この辺りは紫陽花がいっぱい咲いているわね。」

「そっか。案外紫陽花、それもDTが好きな色合いのものから今彼、僕らを見ているかも。」

「ありうる!」

「『ちぇ、今回は、と言ってももうそっちじゃ20年経ったようだが、あの子はpetit ami(彼氏)付きか。なんだよ、冴えねぇvieil homme(爺さん)じゃねぇか』なんて、東大仏文科除籍のあの人、言ってそうだ。」

凛は大笑いして、「ユウさん、フランス語知ってるのね!」と言った。

「身近な単語だけ。フランス語に興味を持ったのは、シルヴィ・バルタンとミッシェル・ポルナレフのおかげ。でも結局齧ったとも言えないほどしか勉強しなかったなあ。」

「あー!」

凛が歓喜を含む声で叫ぶように言った。

「Irrésistiblement! シルヴィ・バルタンの『あなたのとりこ』。母が大好きで、私もよく聴いたわ。確かユウさん、この歌の記事を書いてらしたわよね。」

「ええ。HideSさんと言う方の、この歌の第4verse訳詩で、

涙の後 喜びが戻るように
冬の後 花の季節が戻るように
ちょうど人が『全ては死ぬものだ』と思う時に
愛は勝利者となって戻ってくる

っていうのに打たれたんですよ。」

すると凛がその部分を歌い出す。

「Comme la joie revient apres les pleurs
apres l'hiver revient le temps des fleurs
au moment ou' l'on croit que tout se meurt
l'amour revient en grand vainqueur」

俺は凛の心掻き乱されるような、扇情的な、妖美なフランス語に電撃を喰らったようになった。そしてなんという可愛らしい声だったろうか!まるで少女のそれだった。

「凛さん、たまらずDTが出て来るよ!あなたをどうしても称揚したくなって!」

そのとき、風もないのに凛のそばの紫陽花が大きく揺れた。
俺は咄嗟にその紫陽花と凛の間に割り込んで、凛を抱きしめた。

「もう、たまらない。ダメだ。」

俺は凛をさらに強く抱きしめた。
凛は全く拒まなかった。

紫陽花を見ると、もう揺れてはいなかった。


(つづく)



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