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実験・新形態小説 『ハイドレインジャ』〜第2部その12

ハイドレインジャ
〜第2部その12

「この話、きっと小説の第2部その12で、十二社(じゅうにそう)のことを書くことになるわ。ユウは狙ったの!?」

凛がまたもやメタなことを言った。

「劇中劇、作中作、入れ子構造、枠物語・・・you name itだけど、偶然だよ、今回は。」

俺は、この実験小説のしっちゃかめっちゃかさには、『トーホグマン』や『蹉跌集め』以来<慣れている>。

「『蹉跌』では主人公の佐藤ナントカちゃんが新宿区の十二社、熊野神社近辺の生まれ育ちの設定だったわよね。」

「ああ、佐藤悠奈な。」

「なんでそこ、角筈十二社熊野神社に拘るの、ユウは。」

「おいおい、おいらの名前は熊野神社の熊からのものだよ。それを忘れてもらっちゃあ困る。東京でね、しかも俺も住んだことがある新宿区に熊野神社があったら、それはもう興味湧くわな。」

「ふ〜ん。誰かそこにゆかりの人がいるからではなくて?」

「あんとき、つまり『トーホグマン』でも『蹉跌』でも書いたけれど、この新宿十二社の熊野様は室町期の紀州出身の鈴木九郎が創建したと言われていて、その鈴木家は熊野神社神官家であり、九郎も神官になれたんだね。」

「あら、話の筋を変えてる?」

「九郎はしかしどういう事情か、まあ、九郎だからあまりに世継ぎの可能性がなかったからか、伊藤伊勢さんが隣国伊勢=三重県からここ會津に来たように、西国紀州から当時の武蔵国多摩郡中野邑へ移ってきて、いろんな商売はするが、何より東北で金を探り当てたことで『中野長者』となったんだ。恐ろしいのは、そのまさに東北岩手の金城湯池の存在を他に知られまいと関係者を彼が次々殺していったことだ。その深い罪から娘小笹が大蛇になってしまう。」

「ええ。その辺り読んだわ。とっても因業深い話ね・・・って、話がズレてるわよ。
でもまあ、許すわ。『トーホグマン』のこのくだり、再掲するべき、とても興味深い話よね。再掲するわね〜。」

***

「蛇は縁結びに関わるのでしょうか。大国主命は出雲で縁結びの神ですよね。
大国主は『元伊勢』の大神(みわ)神社では大物主と呼ばれます。
大国主の『幸魂(さきみたま)奇魂(くしみたま)』が大物主だと。
大神神社のご神体は三輪山そのものなのですが、『みわ』の『み』は『巳』、
つまり蛇のことでしょうね。『三輪』という漢字に意味は見出しにくい。
どうしてもと云うなら、蛇が三重のとぐろを巻いているということでしょうか。
私の勝手な言い分に過ぎませんが、『巳輪』と書けば分かりやすい。
なにしろ蛇の神聖さは縄文以来この列島に住む者たちに認められてきたようです。
蛇は古語で『カカ』とも言い、お正月の鏡(カカみ)餅が蛇のとぐろを巻いた姿を模したものというのはよく知られていますよね。」

「よくは知られておらんじゃろ。」

金爺が顳(こめ)かみに少し汗を滲ませて言った。
一彦は該博な知識を披露し続けた。

「縁結びの神大国主の出雲大社では注連(しめ)縄の結び方が『左本右末』で、
左から綯(な)うんですよね。
綯われる二本の縄はそれぞれ男女で、男は火、女は水だとか。
全国の神社でこの出雲大社と同じ綯い方をするのはたった一割だそうです。
その中に熊野大社、愛媛の大三島町に在る大山祇神社、
そして大物主を祀る三輪山の大神神社が入るそうですよ!」

「すばらしい!」

九郎は叫んだ。

「なるほどあなたを秀郷様がトーホグマンに推挙されるはずだ。」

「いやあ!」

金爺が照れた。

「お前を褒めたんじゃないぞ。」

フンジジが金爺にツッコんだ。
一彦は無視して続けた。

「この注連縄というのは古事記の天の岩戸のところで記される『尻久米縄
(しりくめなわ)』から来たと言われていますが、
これは『尻組み』ということではないでしょうか。
吉野裕子という人の説を読んだことがあるんですが、伊勢志摩では、
トンボの交尾を正に『シリクミ』と言うらしいのです。」

「ほ〜う!」

一同はただただ聴き入って、嘆声を上げるだけだった。

「この吉野さんは、注連縄の意匠は蛇の交尾の姿だと言うんです。
蛇は世界中で神秘の生き物として、神格化さえされている地域も多い。
さっきも言いましたが、この列島でも、縄文土器には蛇のデザインが夥しく
見られますよね。妖しく、強く、そして脱皮することから、再生、蘇りを象徴する。」

***

「再掲終わり〜。」

「うん、我ながら面白いこと書いてたね。鏡餅のところ、ちょっと加筆してあるけど。」

「で、その小笹さんの娘・ささゑさんや佐藤悠奈さんて、誰がモデル?」

「まあ、まあ、熊野神社つながりの俺の空想ってことだから。」

「私、こだわらざるを得ないのよ。」

「え?」

「私、祖母が新宿にいたって言ったでしょう?」

「ああ、第1部その3でそう言っているね・・・ま、まさか!」

「そう、その母方の祖母は、自分の家を『角筈の家』って言っていたわ。私はおばあちゃんを『十二社のおばあちゃん』て言っていたの。今の西新宿二丁目辺り。西新宿は旧名角筈や淀橋だった。おばあちゃんね、女性の形容にはちょっと不適切かもだけれど、<いなせ>な人だったわ。母もその気質を受け継いでね、父が亡くなって1周忌を過ぎたらさっさと英国人と再婚したし。決断が早いって言うか。」

「そのおばあさま、お名前は?」

「鈴木月(ルーナ)。『月』と書いて『ルーナ』。親が、つまり曽祖父母が<ハイカラ>な人だったのね。」

「鈴木っ?そしてルーナ、月って・・・12回満ち欠けして一年じゃないか。できすぎ・・・。」

「そう。祖母は親から12は神秘的な数だってよく聞かされていたらしいわ。」

俺は呆然唖然としていたー
必死に意味を知ろうとしつつ。

するとー

「ユウとやら、お前の祖母殿が仰られた、霊山の修験者はワシであるぞ。」

またもやお社の扉が歪み、凹み、また前へせり出た。
もうこれ以上ないという修験者の格好の老人が出てきた。

「予言通りになったのう。しかしまさかEvil Womanの歌がきっかけになるとは。」

「いいえ!」

凛がすぐに反論した。

「ユウの、私の故郷成城の丘を愛でる歌がきっかけでした。」

「おお、すまぬ、すまぬ。」

修験者は謝った。

「のう、凄まじき時代ではないか、のう、ユウ殿、凛殿。」

「はい?」

「我らの時代では考えられぬことよ。我らの時代なら、自分が作った歌は近隣の者にしか聴かせられなかった。念力でも使える者なら、遠くの者にも伝えられたかも知れぬがのう。そんな力を持つ者はほとんどおらん。つまりインターネットは、昔の超能力者しかできなかったことを誰もができる世にしたのじゃな。」

「はい。その代わり、全くレコードやCDなどが売れなくなり、著作権がめちゃくちゃになって、一部例外を除いてミュージシャンたちは没落しましたが。」

「まあ、そう言うな。インターネットのおかげでお主は凛に会えたではないか。」

「はあ・・・。」

俺は訝りの声を発した。

「そのこと、つまりインターネットのこと込みで修験者様は私と凛の邂逅を予言されたのですか。」

「インターネットも念じゃから。人の念も、インターネットの信号も電磁波じゃからのう。同じことじゃ。インターネットがなくても、まあ、遅い早いはあってもじゃ、お主と凛はきっとつながった。注連縄のようにな。どうじゃ?」

凛が赤面した。


(つづく)



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