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実験・新形態小説 『ハイドレインジャ』〜第2部その9

ハイドレインジャ
〜第2部その9

「長岡藩士の中田さんとは、なんと俺、17歳の時に出会っているんだ。」

俺は凛と祖父母の眠る墓へと歩み出して言った。

「ええ。知ってるわ。」

凛が応えた。

「大山祇神社の奥の院前にあるお籠もり旅館で勉強合宿していて、翌日合宿終了、下山という夜の就寝時、ユウと一緒だった男子4人全員が目撃した人形(ひとがた)の乳白色の幽霊、それが中田さんだった。」

「その通り。すごい記憶力だなあ。」

「ユウがラップ現象に最初に気づいたんでしょう?」

「そう。そして誰一人慌てず騒がず、『隣の部屋で寝ている女の子たちには言わないでおこう』って言って、そのままぐっすり眠ったんだ。翌朝、これまた不思議なことに、誰一人そんな異常な体験のことを口にすることがなかった。すっかり忘れていたっていうのが真相で、そんとき一緒だった大堀っていう俺の友達も全く忘れていたって。」

「不思議ね。」

「ああ。俺がその怪現象を思い出したのは、2週間くらい経って大堀と一緒にその奥の院のある山が見える原っぱを歩いていたときだったんだ。『そういえば』って言って。大堀も『なんで忘れていたんだろうな』って。そしてその、俺が急にその出来事を思い出した場所は、首塚があったところだった。」

「中田さんと岡村さんは、その場所で斬首されたんでしょう?」

「そう、戊辰戦争時。二人は長岡を追われ、藩の司令官河井継之助と同様、しかし違うルートで友藩會津へ逃れてきたんだが、薩兵に見つかった。その見つかった場所が俺たちが勉強合宿したお籠もり旅館さ。薩兵は山を数時間かけて登って追って来たんだ。大山祇神社は新潟の人々の尊崇集めていたから、山深い奥の院に隠れていれば見つかるまいと思ったんだろうね、中田さんも岡村さんも。」

「ところが、薩兵に見つかった。」

「うん。きっと告げ口した人がいたんだろうね、俺の故郷の、当時の住人の中に。」

「ユウがまるで見て来たように語れるのは?」

「ああ、俺、大堀とその幽霊目撃の体験を思い出して、すぐに郷土史家の父の蔵書を漁ったわけさ。そのことを記述する本があるんじゃないかって。そしたらー。」

「書かれていたんだね。」

「そう。首塚はそこ、そして胴体の方が常泉寺に埋葬されたと。」

「その首塚の存在を知っていたのは、ユウだけだったんでしょう。」

「そうチビの頃からね。おしっこひっかけたこともあった。」

「・・・。」

「それにさ、勉強合宿を引率・監督してくださった高校の担任が日本史の先生で、しかも會津の郷土史が専門だったんだ。」

「それは初めて聞いたわ。」

「うん。ブログには書いていない。でも、きっとそのことも大きいね。中田さんや岡村さんが義に生きて義に死んだ事実を掘り起こしてほしいって。」

「ああ。<掘り>起こしてってHannah Lynnが今言ったけど、その日本史の先生の名が正に<ほり=堀>と言い、俺と一緒に霊を見て、首塚近くでそのことを思い出したときに一緒にいたのが<大堀>で・・・って、あんまし関係ないか。」

「掘り起こす、かあ。農耕では必須の行為。そして歴史学・考古学でも。もちろん地質学や古生物学、さらにもっと多くの学問でも。3次元空間では地面などの下に埋もれたものを地表へ取り出すことだけれど、4次元以上の空間では、貫入することよね。」

「なるほど。4次元以上の空間だと、上下左右なんてないだろうしね。」

「ユウと私は、他者の貫入を感知できる。そしてもしかすると私たちが貫入でき、何かを掘り出せるかもしれないわ。」

「おお。Hannah Lynnが積極的に俺たちの物語を『トーホグマン』チックにしていくね!」

俺たちは大笑いした。
そのとき俺たちはもうとっくに我がN町野澤家初代夫婦が眠る墓の前に立っていた。

(つづく)



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