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Sさんの家のおばあちゃん、逝く

隣家Sさんの「おばあちゃん」が亡くなったようだ。
報せは正式にはないけれど。

私が世田谷に引っ越してきて以来、挨拶をする関係だった。
挨拶ばかりか、互いの家の庭の花や実が美しいとか、天気のこととかもお話ししてきた。
そっくりな娘さんが車椅子を押し、毎日午前中と午後に外に出ておられた。

今夏帰省した時に買った會津の蕎麦をお土産にしたら、娘さんが大いに感謝したー

曰く

「母はずっとこの頃食欲がなくて困りきっていたんです。
ところがいただいた蕎麦をおいしいおいしいって食べてくれて・・・。
本当にありがとうございました!」

確かにその帰省前の十日ほどだったか、おばあちゃんの姿を全く見なかった。
もしかしてご体調を崩されたかと心配していた。
だから、娘さんの言葉がとてもうれしかった。

秋になって、母娘の車椅子散歩外出は再開されていた。
ちょっと前まで、おばあちゃんはお元気だった。
家の庭木の実をいただけないかとおっしゃった。
その実が真っ赤に色づいた頃、ほんのちょっと前だ。
「飾りたい」とおっしゃった。

秋の日、玄関前で椅子を南向きにして座り、佇んでおられた。
気持ちのいい日には、そういう姿を何度も目にしてきた。
最後にその姿を見た時、じっと何かを考え込んでいらっしゃるようー
あるいはただ茫っとされているようだった。
長き人生を省みておられたか。
その表情が忘れられない。

とても悲しい。


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